
2015年から2017年までの期間に高まったテロの脅威と地政学リスクは、金価格にどのような影響を与えたのでしょうか。地政学リスクは世界経済の構造そのものを揺るがす重要な要素であり、投資家の心理を大きく左右し安全資産とされる金への需要を高める場合があります。本記事を通じて、この時期の具体的な出来事と金価格の関連性を明らかにしたうえでリスク資産と安全資産の関係性を考察していきます。

2015年から2016年にかけて世界各地でテロが多発しました。しかし、この時期に起きたテロの影響で金価格が高騰したわけではありませんでした。
2015年11月に発生したパリ同時多発テロは、世界に大きな衝撃を与え金融市場にも一時的な影響がありました。従来であれば世界中を揺るがすような不穏な事態が発生すると、有事の金買いと呼ばれる動きが起こることで安全資産である金の価格が上昇する傾向があります。
しかし、パリのテロ事件後は大きく金の価格が上昇することはありませんでした。理由として、すでにアメリカの利上げ観測が高まっており、ドル高によって金価格がそれほど上がらない状況であったことが挙げられます。
また、投資家の間ではテロ事件による株価の一時的な下落をむしろ購入する機会であると捉える動きも見られました。つまり、地政学リスクの高まりが必ずしも金価格の急騰に直結するわけではなく、当時の金融市場の状況や投資家のリスク許容度によって金の反応は異なることがわかるでしょう。
2015年11月に発生したトルコによるロシア軍機撃墜事件は、両国の緊張を高め地政学リスクを増大させる要因となりました。過去に発生した同様の事例では、安全資産として金が買われる傾向が見られましたがこの事件に対する市場の反応は比較的落ち着いていました。
考えられる理由としては、両国間の軍事的な衝突にまでは発展しないと考えられていたことが挙げられるでしょう。加えて、前述のアメリカの利上げが市場の関心を集めており、地政学リスクの金価格への影響力が相対的に小さくなっていた可能性もあります。つまり、地政学的な緊張が高まったとしても、その後の展開や他に発生している出来事によっては金価格への影響が大きくならない可能性もあるでしょう。

2016年から2017年にかけて、世界中で起きた主な大きな出来事は次の3点です。
・サウジアラビアとイランの国交断絶
・北朝鮮の核実験とミサイル発射
・トランプ政権の誕生とアメリカの外交政策の不確実性
2016年1月に発生したサウジアラビアとイランの国交断絶は、中東地域の緊張を一気に高め、世界の金融市場に大きな衝撃を与えました。原油価格の変動や株式市場の同時株安、リスクオフの円買いなど、世界中で多くの影響があったことから安全資産としての金への関心を再び高めました。
2025年までは地政学リスクに対して大きな影響がなかったのですが、この事件をきっかけに再認識されることとなりました。中東地域は原油の主要な産出国であることからエネルギー価格の上昇を通じて世界経済全体に影響を与えます。そのため、投資家はリスク回避の動きを強めた結果、金価格は一時的に上昇し地政学リスクが市場に与える影響の大きさを示す結果となったのです。
2016年から2017年にかけて、北朝鮮による核実験とミサイル発射は東アジア地域の地政学リスクを著しく高め、周辺国との緊張関係を悪化させたことで国際社会に安全保障上の懸念を広げました。
このような状況下において、安全な資産への逃避行動が活発になり金はその代表的な投資先として再び注目を集めました。また、北朝鮮の行動は予測がしづらく金融市場に不確実性をもたらすため、リスクを回避しようとする投資家の間で金の需要が高まったのです。
2017年に発足したアメリカのトランプ政権は、従来の外交政策からの転換につながり国際関係に新たな不確実性をもたらしました。保護主義的な貿易政策や同盟国との関係見直しといった発言は、世界経済の先行きに対する不安感を高める結果となったのです。
政治的な不透明感が高まったことで、安全資産としての金の魅力を向上させ金価格を高める要因となりました。特に、トランプ政権の政策運営に対する懸念が強まる局面では、リスク回避の動きが強まり金への投資が増加する傾向が見られました。
2015年から2017年の金価格の動向を分析すると、テロの脅威や地政学リスクの高まりが、必ずしも常に金価格を押し上げるわけではないことがわかりました。2015年から2016年前半にかけては、アメリカの利上げとドル高というマクロ経済の要因が、地政学リスクによる金買いの動きを抑える傾向にあったのです。
しかし、2016年後半から2017年にかけては、サウジアラビアとイランの国交断絶、北朝鮮の核開発、アメリカのトランプ政権の誕生といった地政学的な出来事が相次ぎ、市場の不確実性を高めた結果、安全資産としての金への需要が再び高まりました。
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